断片的

こういうことになる

いやな日記

変なオタクに目をつけられている。声が大きい。この半月、相手がこちらに話しかけてくるのを適当にあしらっていたらいつの間にか面倒なことになっていた。触れずとも圧力を加えれば離れていく人たちが多いなか、直接殴りでもしないと離れていかないタイプの人間だ。生理的に受け付けない。そして今日、席替えをしたらその人が隣の席にいた。自分はみるみる具合が悪くなった。「そっちはパソコン得意なんでしょ?前に○○さんの隣の席だった俺の友人が君のタイピングが速いって言っていたよ」こちらを向いたオタクは開口一番にそんなことを言ってきた。オタク同士で私の話をしないでほしい。それを伝えてこないでほしい。本当にやめてほしい。

何かよく分からないことをまくし立てるオタクに笑顔を消して対応する。しばらく受け流してから最後に「MOSの資格は一応持っているから、何かわからないことがあったら自分を頼りにしてくれていい」という旨を伝えられた。その次の時間の講義はMOSの内容をやる演習科目だったので、その時に備えて言っているのだろうと分かった。

そして私は、ああ、多分大丈夫です、と力なく答えた(と思う)。私は情報系の学科出身なので、多分ではなく確実に彼の力を借りなくても大丈夫なのであった。そして私は、仮に今ここでわからないことがあってもそれを解決しようとするほどの熱意を持って演習に臨もうとはしていなかった。高1の頃に散々グラフだの関数だの表だのを作ったからだ。さらにいえば、こちらからは何も尋ねていないのに「自分は小学三年生頃から独学でコンピュータに触れて勉強をしてきたから何かあったら聞いてくれ」と言ってくるような人間とは極力話したくなかった。

わかりました、でも大丈夫です、結構です、そんなことを既に何回か言っているはずだった。ここまでくると頼りにして欲しいというオーラがだだ漏れだと言わざるを得ない。頼りにしてくれと言葉にしてまで、他人を通じて自己肯定感を得ようとするオタクの根性に震える。

そして演習科目の講義が始まった。講義内の指示に従って作業をしていると、指示を無視して異様に早く作業を終わらせているオタクがこちらにチラチラと視線を向けてくる。それに気づいて作業の手を止めると何か言いたげにまだこちらに視線を向けている。ぶっ殺すぞアドバイスしたがり野郎と心の中で吐き捨てる。人のパソコンを本人の目もはばからずに盗み見てくるんじゃない。周辺視野で確認してしまうオタクの視線に耐えかね、耳にかけていた髪を垂らして物理的に視界を狭めた。目の前のパソコンを見つめる。作業内容の例や解説が表示されている教室前方のスクリーンに顔を向けると、必然的に隣の席のオタクが視界に入り込んでしまう座標にいた。オタクを視界に入れないよう必死になって目の前の四角い液晶を睨む。

教師の口頭での指示だけで授業をやり過ごすことにした。教材が保存されているフォルダを探す。オタクのせいで集中を削がれて全く頭が回らず、エクスプローラー内のファイルを嫌だなあ嫌だなあと考えながら意味もなく開いたりしていた。すると視界の横からこちらのパソコンに向かっていきなり手が伸びてきた。「そこじゃなくてまず○○ってフォルダに行かなきゃならなくて……」早口でまくし立てるオタクの声だ。わたしのパソコンの画面を指さしている。
オタクにファイルの場所がわからず困っていたと勝手に捉えられた。わたしはこいつに一挙一動を注目されているのか?あまりにも不快になってオタクの顔も見ずに「大丈夫ですから」と遮った。

このオタクはタイピングやマウスをクリックする力が異様に強くて、ふたりでひとつになっている机が不愉快極まりないほど振動する。頻繁にしている貧乏ゆすりも講義室の三人分に連結している椅子を小刻みに揺らす。オマケに視界の端に大きく震えている脚がチラつく。神経質になる。頭を抱えたくなる。さっきもラインがきた。頑張って「これ以上関わらないでほしい」のオーラを振りまいているが、直接それらしきことを言わないと伝わっていないようだった。無言の圧力で察してくれない人間に自分の拳が触れなければならない。オタクが明日からペアワークをやる上での必要最低限の内容しか話しかけてこないことを祈る。