断片的

こういうことになる

今すぐ逃げろ

ああ、そうです。その通りでございます。私が殺されてから、数か月の月日が経ちました。あの忘れもしない夏の日、私は殺されてしまいました。正確に言えば、私はあの日殺されたのだそうです。はい、はい…忘れもしないのではなかったか?そうですね、はい、実は、私は自分が殺されたのかどうかということがまるで分らないのです。あの冬の日、何が起きたのかしっかり覚えております。ですが、自身に降りかかったことが観念的に理解できていないのです。自分が生きているのか死んでいるのか眠っているのか起きているのかなんてこれっぽっちも判らないのでした。それは、とにかくぼやけていました。ただ、彼女ら曰く私は「殺された」のだそうです。もっとも、三番目の彼女が中心となってそう言っているだけという気もしていて、だって、他のひとは変わらずわたしと接してくれるようにみえます。相も変わらず厭世はやさしいし、世俗と一緒におしゃれをしてでかけた日は、楽しい時間だったのです。それなのに、私は一体どうしたのかと彼らに問うと、哀れみの視線をよこしてくるのです。私はやはり、あの春の日に殺されてしまったのでしょうか。彼女らの言う通り、浮遊体が口をぱくぱく動かしているだけにすぎないのでしょうか。ああ、一体どういうことなんだろう。私はいまここで生きている意識があるのに?そういえば駆け回るときに使っていた足が、今はもうないようにも感じられます。地に足がついていないどころか、そのものが無くなってしまったかのような…。まあきっとそれはたいしたことじゃあないのでしょう。左側で笑っている声がきこえてくるようです。あなたもどうか笑ってください。本当にそうですか?私があなたを恨んでいないとお思いですか?私が過ごしていたここ数ヶ月、はまるで白昼夢のようにございました。具体的には、そう、わたしは表面化した祈りの色を眺めていました。眠る時などに、胸の前で手を組んで祈っております。わたしたちの思慕が向く相手はいずれも、ああ、すみません。いずれも…、わたしは祈っています。また、いつもわたしのために怒ってくれる厭世を嬉しく思います。彼らが安寧に包まれて生きることを望んでいます。ええ、はい、え?抽象的すぎやしないか?…だってそうでなければ私は消えてしまうのでしょう?違います、違うんです、私は酷くあやふやで、彼女という検閲を通してでないと、言葉を紡げないのです。これでも限界まで詳しく言っている方なんです。事実と乖離した心象が私の世界のすべてです。御免なさい。最近、…の色々なことで、厭世と世俗が大人しく毎日を過ごしているのを見つめていました。隣にはもちろん彼女もいます。そうして傍から見ていると、自分が誰なのか分からなくなります。意識だけが彼女らに寄り添ったまま生活を共にしているような錯覚に陥るのです。どうか助けてください。私を殺すか、どこか違う場所へ連れていってください。所詮私は彼女の傀儡です。出来の悪いクローンです。欠落した片割れに過ぎません。ああでも私は既に殺されているのでしたね、私は一体こんな場所で何をしているのでしょうか?